新説 浦島太郎



むかしむかし、地球から150光年離れた宇宙にα星という知的生命体が存在する惑星がありました。
彼らは高度な知能と科学力を持ちながら、反面とても臆病で、いつか自分たちを襲ってくる異星人がいると思い込み、恐る恐る宇宙を見張っていました。
彼らはある日、遠く離れた銀河系の中に青く輝く星「地球」を発見!さらに動く生命体の存在を見つけたのです。
α星人達はどよめきました。
「これはいかん!すぐに探査隊を派遣して、この星を調べてこい!」と、慌てて地球に彼らが誇る亜光速宇宙船を出発させました。
彼らの科学技術は極めて高度で、宇宙間ワープ航法を駆使して、1日半で地球にたどり着いたのです。

地球は青く輝く水の惑星、表面の7割が海です。
α星の宇宙船は、確率どおり海に着水しました。
乗っていたα星人は驚きました。
「なんと沢山の生物がいるんだ!」
彼らは、秋刀魚の大群の中に突っ込んでいたのです。
「他にも違う生き物がいるぞ!全部調べろオオオオ」
しかし、彼らは魚群の中に高度な知能を持った生物を見つけることが出来ません。
「なんだ、みな下等な脳みそしか持っていない。これならあと10億年は大丈夫だ。」
そう安心して帰ろうとした時、乗組員が陸地を発見しました。
「船長、あそこにも何か知的生命体がいます。調べましょう。」
彼らは臆病なので、なるべく静かに調査するため、小型の無人上陸艇を出しました。
ところが上陸地点が砂浜だったため、うまく上陸できません。
上陸艇は推進器を止め、4本の触手を出して上陸することにしました。

まもなく夕暮れ近い海岸では、子供達が遊んでいました。
そのすぐ目の前に上陸艇は出現したのです。
モニターしていた本船のα星人は、直立で機敏に動く複数の生命体に驚きました。
しかもその生命体は長い棒をもち、他の生命体を攻撃しているような動きをしています。

海岸でチャンバラごっこをしていた子供達は驚きました。
海からのっそのっそと何かが上がってきます。
「亀かな?いや亀に似ているけど、亀じゃないぞ!」
本来優しい子供達は、亀はいじめたりしません。
亀に似ている不思議な移動体を見て、持っていた棒で突付いてみました。
α星人はさらに驚きました。
「うわア!この生命体は集団で攻撃する能力を持っている!!!」

少し離れた海岸で、一人の漁師が漁から帰って来ました。
すぐに遠くで亀をいじめている(ように見える)子供達を発見!
急いで駆け寄り、亀を助けようとします。
「こらこらお前達、今釣れた魚を分けてあげるから、亀をいじめないで早くお家に帰りなさい。もうすぐ日が暮れるよ。」
素直な子供達は、漁師の言葉に従い、それぞれの家へ帰っていきました。
この漁師の名前を浦島太郎といいます。
α星人は、さらにさらに驚きました。
集団で攻撃してきた乱暴な生命体を一瞬にして追い払った、さらに大型の生命体が現れたからです。
「これはいかん!この生命体をなんとか捕獲しなくては、、、とりあえず上陸艇を本船に戻せ!ただし、この生命体のデータを取ってくるのを忘れるな!」
上陸艇は、薄暗くなりかけた海岸から慎重に本船へ戻ります。
その姿は、まるで助けられた亀が漁師にお礼をいいながら、何度も何度も振り返ってお辞儀をしているように見えました。
ところが実は、上陸艇は浦島太郎の体型や脳波を暗視カメラや超音波で収集して行ったのです。

探査艇本船の会議室。
「分析は終わったか?」の船長の声に、「大体のところはわかりましたが、やはり科学的な能力については、本国に連れて行かなければわかりません。」
「よし、では捕獲作戦を決行しよう!」
捕獲には生命体を惑わせる、さまざまな仕掛けをもった捕獲ロボットが使われました。
浦島太郎から見れば、それは怪しく光かがやくまるで天女のようなものに見えたでしょう。
まるで「助けた亀のお礼に竜宮城をお見せします」と言っているようでした。
捕獲は成功!浦島太郎はしっかり眠らされ、亜光速宇宙船のワープ航法によって、たった一日半で150光年先のα星へ連れて行かれました。

α星で、浦島太郎は検査機により丹念に脳波を調べられます。
ところが夢を見ていた浦島太郎からは、何の科学技術も攻撃能力も発見できません。
それどころか、漁師の彼の頭にはお魚さんでいっぱいで、まるで鯛や平目が舞い踊っているかのようなデータしか取り出せないのです。
唯一、独身男性だった彼の欲望といえば、美しい女性が自分の前に現れたらいいなアぐらいです。
浦島太郎がまだ見ぬ理想の女性!彼は夢のなかで、彼女の名を乙姫と呼んでいました。
拍子抜かれたα星人は、「この生命体も同じだ。多少海のものに比べ知能はあるが、科学技術を発達させるには1万年かかるだろう。」と呆れてしまいました。
「船長、ご苦労だけど殺す必要もないし、この生命体を元の星に戻してきてくれ。」
ところが船長は「我々はワープ航法でも実際の日数しか老いませんが、この生命体は検査によると距離に応じて老化します。銀河系の青い星まで150光年!往復で300年の計算です。多分死んでしまいますので、送り届けても無駄でしょう。」
「うーむ、それも可哀想だナ。そうだ生命維持装置を持たせなさい。」
浦島太郎の夢の中でα星人は細工をします。
まるで乙姫さまが「これは竜宮城に来た記念の大切なお土産です。けして離さないように、そしてけして開けないようにネ!」といって貰ったように思わせたのです。
この生命維持装置のことを『玉手箱』といいます。

浦島太郎は海岸にいました。
ところが♪もといた家も村もなくーただ行き交う人は見知らぬひとばかり♪なのです。
途方に暮れた浦島太郎は、近くにいた老婆に尋ねました。
ここはどこ?わたしはだれ?
そして帰ってきた返事は、「むかしむかし300年位前に、この浜から若い漁師さんが突然いなくなったという伝説が残っていますよ。」
浦島太郎は頭を抱えます。
「あー!それはきっと自分のことだ!」
「俺はたった3日間、竜宮城へ行っていただけなのに、、、、」
どうしていいものか迷ったあげく、彼は傍らのものに気がつきました。
そう!大事な大事な生命維持装置。いや、けして開けてはいけない『玉手箱』です。
「きっとこの中に何か秘密がある」と直感した浦島太郎は、玉手箱を開けようとしました。
ところが生命維持装置は機械です。なかなか簡単には開きません。
意地になると人は火事場の馬鹿力!ついに玉手箱を開けてしまったのです。
いや正確には、こじ開けて壊してしまったのです。
機械は壊れると電気系統などがショートして、普通白い煙が出ます。
玉手箱を開けて(壊して)しまった浦島太郎は、たちまち白い煙とともに、白髪の老人となりやがて死んでしまいました。
メデタシ。メデタシ。


NSK-Mobile